みなさん、こんばんは。かのです。
最近は雨続きで家から出る気力もなかなか起きず、大好きな作家さん、よしもとばななさんの小説を読みあさっておりました。
今回は、「サウスポイント」という素敵な小説を、みなさんに紹介したいと思います。
よしもとばななさんの小説を読んだことがある方はイメージがつくかと思いますが、このサウスポイントも、よしもとさん独自の世界観で溢れかえっておりました。
柔らかい雰囲気と、感覚的なのに的確な、センス溢れる言葉選びに、クセのある登場人物たち。
そして「愛」と「生」と「死」。
よしもとさんの作品は、毎回とても読みやすく、読後は悲しいような、希望を持てたような、胸に響いたような、柔らかい空気に包まれたような、何とも言えない不思議な余韻に浸ります。
今回はこのサウスポイント、柔らかいハワイの雰囲気に包まれたお話を、私なりの考察で紐解いていきたいと思います。
また、ネタバレにならない程度に注意しますが、あらすじや台詞を紹介する上で、少しばかり具体的な表現になりますこと、ご了承ください。
では、最後までお付き合いください^^
作品情報・著者紹介
「サウスポイント」
- 出版社)中央公論新社
- 発行年)2011年4月23日
- 著者)よしもとばなな
- ジャンル)日本文学
- ページ数)248ページ
「よしもとばなな」
- 代表作)キッチン、ムーンライト・シャドウ、TUGUMI ほか…
- 受賞歴)海燕新人文学賞、泉鏡花文学賞、山本周五郎賞ほか…
サウスポイントのあらすじ
このお話は、主人公の女性テトラの子ども時代から幕を開けます。母とともに夜逃げをするという、中々衝撃的な始まりです。
そんな子ども時代のテトラの記憶の中で、「珠彦くん」という特別な存在の男の子がいました。
2人共、複雑な家庭環境にあったこと、大人びた思考の持ち主であったこと、お互いが相手に強く惹かれたこと。運命の相手と呼んで良い程、幼いながらに深く通ずるものが2人にはありました。
しかし、2人は大人の都合により、少しずつ距離が開くようになっていきます。出会った上野から、(テトラの母の夜逃げにより)上野と群馬という距離になりました。
この距離で2人は、決して不幸ではない、遠距離恋愛をします。
その後、(珠彦くんのお母さんの都合で)珠彦くんはハワイ島に引越し、群馬とハワイという距離になります。
しばらく連絡は取り合っていたものの、いつしか疎遠になってしまいました。
そして、大人になったテトラ。近所のスーパーで偶然、ある歌を耳にします。それは、テトラ自身が夜逃げの時に別れを惜しんで書いた、珠彦くん宛の手紙そのまんまでした。これが、この小説を大きく動かす部分です。
そこからテトラは、歌手であり、珠彦くんの弟を名乗る「幸彦」という男性に辿り着き、珠彦くんの現在を知ることになります。幸彦はキルト作家であるテトラに、キルトを作ってほしいと依頼しました。
テトラはキルト作りの情報収集の為、そして、子どもの頃お世話になった素敵な女性、「珠彦くんのお母さん」に会いに、ハワイ島へと旅立ちます。
ここからは雄大なハワイ島が舞台となります。
哀しみに暮れる2人の女性「珠彦くんのお母さん」とガールフレンドの「マリコ」。
悲しみに押しつぶされそうになりながら生きる、強く素敵な女性。
そして、彼女たちに深く愛されていた彼。
「愛」とは何か?「家族」とは何か?「死」の先に残るものは何か?
ハワイ島の大自然を目の前にして、テトラは何を感じて、何を決めたのか?
目には見えない曖昧なもの、だけど大切なものを中心に、物語は進んでいきます。
サウスポイントのキーパーソン 「珠彦くんのお母さん(マオさん)」
このお話の主人公はテトラであり、運命の相手は珠彦くんですが、2人以上に強く光っている人物がいます。それが「珠彦くんのお母さん」です。
本名「マオさん」は、1994年初版のよしもとばななさんの小説「ハチ公の最後の恋人」の主人公でした。お相手のハチが、珠彦くんのお父さんです。なので、実はサウスポイントは、ハチ公の最後の恋人の続編にもなっているんですね。その為、マオさんの描写はとても魅力的な女性となっています。
子ども時代のテトラから見たマオさんの第一印象は物静かで強い人。
マオさんと手を繋いで歩いた時に、「自分で運命を切り開いてきた手」とテトラは感じています。
この場面を読んで、「テトラ、大人すぎる感性でしょう」とツッコミを入れたくなりましたが(笑)
よしもとさんの書く子どもは、少し大人びていて、ひねくれている子が多い印象です。(TUGUMIという小説のつぐみという女の子は、それはもう桁違いにひねくれていて悪魔のようですが、あとがきにて、つぐみは幼少期の私だとよしもとさんは断言しておりました(笑))
マオさんの台詞は心に響きます。
「本当に好きになれる人はなかなかいないのよ。奇跡よ。」
この言葉を真剣に子どもに伝えるのもまた、マオさんの魅力。
マオさんは自分の旦那さん(珠彦くんのお父さん)と離れて暮らしています。ネパールとハワイ島。お互いのことをとても大切に思い、尊敬して、愛し合っているが、お互いそれぞれの人生があり、離れて暮らすことを選びました。珠彦くんのこともマオさんが育てました。
テトラの目には、マオさんが変わっている、しかし強い人に見えました。
少し省略して載せますが、まさによしもとさんらしい的確な言葉選びだ!と私がひとり心の中で拍手した一文があります。
「…きれいな服を着て暮らす将来とか、大きなショッピングセンターに行ってたくさん買い物してごきげんで帰るとか、子供を塾に入れるかどうかで悩むとか…そういう、この世の中でなんとなくいいとされていること、生活を作っていることみんなが、珠彦くんのお母さんの目の光の中では全くのまやかしに思えてしまう。」
誰が決めたかは分からないが、昔からある女性の幸せな暮らし、将来という枠の外にいるマオさん。
「決して幸福そうではなく、しかしなにかより深いところに立っている、そういうふうに思えた。 でもそういったものにすがらなかったら、いったいなににすがればいいのだろう。なににもすがらない世界があるとしたら、それはどんなに厳しい世界なんだろう。」
曖昧ではっきりとした単語が出てこないから、少し分かりにくいですが、ここでよしもとさんは「孤独」というテーマを書いているのだと私は考察しました。
孤独とは、決して幸福ではないこと。そして人により、どこまでも深いものですよね。その深さは人によって変わるのだろうけれど、孤独と真っ向から向き合うことは、中々に難しく、強くないとできないことだと思います。
そういったものにすがらなかったら、という部分は、先ほど述べた常識的な女性の幸せな暮らしだと解釈しました。
この一文で、よしもとさんは読者にこう問いかけます。
「なににもすがらず、孤独を自覚し、抱えたままに生きる世界はどんなに厳しいのだろうか?」
マオさんは孤独なのか?
では、ここで、マオさんは本当に孤独なのか?を考えていきたいと思います。
私の答えはNOです。
マオさんには最愛の人「珠彦と幸彦の父」がいました。遠く(ネパール)にいるけれど、今でも思い合っています。自分の人生を生きているから、別々に暮らしていますが、大切で愛しい気持ちに決して変わりはありません。
ここで、マオさんのように強い人でなければ、この愛も薄れて、本当の愛でさえ見失ってしまうと思います。本当の愛を守っていくには、自分自身を生きる強さ、孤独と向き合う強さ、相手を信じて尊重する強さ、何にしても「強さ」が必要なのではないでしょうか?
そして、マオさんには珠彦と幸彦という子供がいます。(珠彦がハワイに引っ越すまでは、珠彦とマオさんも離れて暮らす時期がありました。)離れて散り散りになってはいるけれど、風変わりな家族の形かもしれないけれど、真っ直ぐな愛を持った素敵な家族がいます。
自分の仕事の関係で自由に世界を飛び回っていたマオさんも、珠彦と幸彦の存在に、ハワイ島に定住する喜びを感じました。
外への刺激を求めてしまい、落ち着くことができなかったマオさんが、母となり、子供という存在のおかげで、今の生活に退屈しなくなりました。自由を求めて生きる自分の生き方を「家族」いう大きな愛が、変えたのです。
たとえ、孤独を抱える時期があったとしても、それはずっとではないのかもしれません。その孤独を自覚することも、耐えることも、その孤独から抜け出すことも、その人の強さです。
ここで、逃げ出したり、曖昧にしたり、溺れてしまう人もいるでしょう。きっとそっちのほうが多いでしょう。
例に挙げているのが、楽しいことに気持ちを逸らして恋人を作り、逃げ出したテトラの母。
アルコール中毒という深いところに溺れてしまったテトラの父です。
そんな父母を持つテトラの目には、孤独を自覚しながら生きるマオさんが何かを超越した人に見えたのだと思います。きっとテトラは、マオさんという人柄に魅了されていたのでしょう。読んでいく中で、わたしもマオさんに魅了されました。
マオさんは孤独を自覚しながら生き、孤独を乗り越えた人です。
サウスポイントのテーマ①「死と再生」
よしもとさんばななさんのファンの方はしっくりくるテーマかと思います。「死」と「再生」よしもとさんは一貫して「死」という話を多く書いてきています。そしてフォーカスするのが、残された最愛の人たちです。
よしもとさんが日本大学芸術学部文芸科の卒業制作で書いた「ムーンライト・シャドウ」
よしもとさんの処女作品にあたりますが、この作品の中でも「死」「再生」「愛」が中心となっています。その中でも再生していく過程が心苦しく、きれいな描写で描かれています。
サウスポイントでの「再生」は、珠彦の母マオさんと、彼の恋人であったマリコ、そして珠彦です。
大切な人の死、大きな、ショッキングな出来事であり、残された人たちは今までの生活ではなくなります。心に大きな穴があき、何かしらの問題が生じ始めます。
朝起きた時に、息子の死を自覚することが怖くて眠れなくなったり。夜になっても帰ってこない息子を嘆いてお酒を飲まずにいられなくなったり。
ショックで生理が止まってしまったり。食べられなくなって痩せ細ってしまったり。
しかし、時間は流れていきます。時間が解決してしまいます。
彼がいないことが大丈夫になりたくないと切に願っていても、体は悲しみを受け入れていきます。
時間は記憶を薄れさせてしまいます。
彼が、母の為に毎朝いれてあげていたミルクティーの味をマオさんが思い出せなくなることも。
マリコの生理が始まり、食欲も湧いてきてしまうことも。
全て時間のせいなのです。
大切な人がいなくなったという哀しみを忘れるわけではないけれど、生きている私たちは歩みを止めることができません。止まっているつもりでも、時間に流されて、同じ場所にはいられません。
それを受け入れて生きていくこと。これもまた人の強さです。人が再生していく姿は、哀しくも逞しくて美しいんですね。
よしもとさんは人が再生していく命のきらめきを表現しているのだと、あらためて感じました。
サウスポイントのテーマ②「孤独」
先ほど、マオさんの孤独について少し触れましたが、やはり大きなテーマだと思うので、もう一度掘り下げていきたいと思います。
実は「孤独」には個人的な思い入れがあります。私は孤独というものを自覚して3年ほど経ちます。
みんなが孤独を感じるものなのか、孤独とどう向き合うものなのか、孤独をなくすことはできるのか、孤独は悪いものなのか。ちょうどそんなことを考え初めていました。
昔から、1人の時間が好きで、自由に生きたいと思っていました。何にも縛られず、自由に生きている幸せがここにあるにも関わらず、埋まらない寂しさと見えない未来の道に、深い孤独を感じます。この孤独はどうしたら埋まるのか、自問自答してきました。
孤独を自覚して、なおかつ受け入れて生きることはやはり簡単なことではありません。何かにすがりつきたくなり、逃げ出したくなるのが人間です。しかし、そこに魅力はありません。
現代であれば、マッチングアプリが1つの例だと思います。寂しさ故に出会いを求める。しかし、誰と会っても心にぽっかりあいた穴、すなわち孤独は埋まらない。もしかしたらその孤独の穴は、より一層深くなっているかもしれない。こんな経験はありますか?
孤独を抱えて生きることは、その人の強さであり、大きな魅力です。
自分が本当の意味で孤独ではないこと、自分を支える何かが必ずあること。例えそれが、近くではなく遠い場所にあったとしても。
これを心の中に置いて、自分の信念に正直であれば、きっと強くて深くて、内側からのきらめきが滲み出るような素敵な人になれるのではないでしょうか?
マオさんの生き方は、今の私だったらきっと耐えられません。
サウスポイントを読み解いて、自分には強さが足りないことに気付かされました。遠く離れていても、自分を愛してくれる家族や友達がいることを思い出しました。
孤独を無理になくさなくてもいい、自覚していることは私の強さです。ここから孤独がどうなっていくのか、それは私次第です。
このタイミングで、マオさんに会えたこと、この小説を深く読めたことに運命を感じました。
クライマックス(愛と希望)
クライマックスは、意外にも珠彦の部屋の中で迎えます。ウクレレの音と未来への希望と愛しい人。そんな柔らかいハワイの雰囲気の中で、テトラは自分の人生を、自分で選択することができることに強く喜びを感じます。
子どもの力ではどうすることもできなかった理不尽な別れ。そんな悲しかった青春時代に夢見ていた「珠彦くんとずっと一緒にいるという幸せ」それが目の前にある今。
ハワイの美しい描写、サウスポイントと、ふたりの世界が交わる希望で幕を閉じます。
大人になった今、自分で選択することができる喜び。よしもとさんは読者に問いかけています。
さぁ、あなたはこれから何を選択しますか?
最後に
ここまでお付き合いくださった皆さん、本当にありがとうございました。
初めての書評は、想像以上に難しくて、時間もかかってしまいました。途中でやめようかという考えが頭にチラつくほど、苦戦しました。
しかし、書き終わった今、大きな脱力感が何だか気持ち良く、孤独のテーマから最後の問いにたどり着くあたりまではノンストップで、クセになりそうな胸の高揚感でした。
拙い文章ですが、少しでも「サウスポイント」に興味を持って頂けたら嬉しいです。ネタバレになってしまわないか少し心配ですが、ネタバレを避ける為にあまり書くことができなかった幸彦。素敵な彼の存在もぜひサウスポイントで読んでいただけたらと思います。
よしもとばななさんの作品は、読みやすくはありますが、言葉で表すと正解が見つからないような曖昧なテーマ「死」「生」「愛」といったことが多いです。
今回は「孤独」が私の中ではグサリと刺さったわけですが。
よしもとさんの作品は傷を癒すような不思議な力があります。
何かに迷った時、辛い時、自分ではどうすることもできない状況の時、あなたのそばに寄り添ってくれる一冊がきっと見つかるはずです。
私はまだまだ、よしもとばななワールドから抜け出せなさそうです。次は昔読んだ「ハチ公の最後の恋人」を読み返そうか、なんて考えています。
どんよりとした梅雨の真っ只中ですが、どうかみなさんが良い1日を過ごせますように。
それでは、おやすみなさい。
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